晩夏

やがて夏は終わるのだが

秋が始まるのはいつか

 

夏の終わりは秋の始まりと同値ではない

入れ替わるように都合よくはない

 

それは何においても同じで

ある何かが終わりを告げても

ある何かがはっきりと始まったようには

思えないことがある

 

物質がはっきりと失われても

その物質の存在を感じることや影響は残る

 

残滓ではない

影響である

そのものがないのに

そのものを感じるということだ

 

人間の記憶の中では

残像が再生されることがある

再生される契機となるのは

その残像の一部分が含んだ

断片的な情報を人間が知覚することだ

 

つまり、そのものやその人でなくとも

環境因子が呼び起こす残像がある

 

人間の記憶は多面的である

 

ある角度からの映像だけでなく

他の角度からの映像

対話している相手から見た映像や

もはやなんなのかわからない断片情報も

記憶である

 

物質だけでは記憶は構成されづらい

記憶にはたくさんの名札がついている

ある物質だけでは記憶になりえない

とまでは言わないが

記憶として保存されづらいであろう

 

ここは記憶法の中でも重要なところで

あることを覚えようとするとき

そのあることを自分の中で

たくさん描写する

できるかぎり違う言葉を使ったり

違う画像映像を使いながら描写する

 

人間の脳の構造上

入力よりも出力それも出力したこと自体を

動作として記憶する比重が高いようだ