正誤

事実と違うことは誤っているが

違うと指摘することが正しいとは限らない

正誤は事実としての正誤と

乖離した意味を持つことがある

 

ある特殊な状況下において

ある事象の正誤を判別するとき

ある事象が一般的な常識に照らして

正であるか誤であるかとは

違う判断が出てくる

 

ただそれは特殊な状況下での論理でしかなく

一般常識に照らして多分に

心地悪さを伴うことがある

 

いわゆる政治などがそうだ

気遣いも同じことである

言わぬが花とはよく言ったもので

我慢の美徳を上手に描写しているが

それは詭弁との薄皮一枚に存在する

 

ある特殊な状況においても

一般論を貫き通すことは

空気が読めないという評価になりうるが

それはとても悲しいことである

 

なぜなら一般的に正しいと思っていても

それを執行することができない

そのことに歯痒さを感じることもあろうし

それを執行できない自分に腹が立つ

といあこともあるだろう

 

自分を殺すことができるとは

美しいことなのだろうか

言わぬが花は本当に

花なのだろうか

晩夏

やがて夏は終わるのだが

秋が始まるのはいつか

 

夏の終わりは秋の始まりと同値ではない

入れ替わるように都合よくはない

 

それは何においても同じで

ある何かが終わりを告げても

ある何かがはっきりと始まったようには

思えないことがある

 

物質がはっきりと失われても

その物質の存在を感じることや影響は残る

 

残滓ではない

影響である

そのものがないのに

そのものを感じるということだ

 

人間の記憶の中では

残像が再生されることがある

再生される契機となるのは

その残像の一部分が含んだ

断片的な情報を人間が知覚することだ

 

つまり、そのものやその人でなくとも

環境因子が呼び起こす残像がある

 

人間の記憶は多面的である

 

ある角度からの映像だけでなく

他の角度からの映像

対話している相手から見た映像や

もはやなんなのかわからない断片情報も

記憶である

 

物質だけでは記憶は構成されづらい

記憶にはたくさんの名札がついている

ある物質だけでは記憶になりえない

とまでは言わないが

記憶として保存されづらいであろう

 

ここは記憶法の中でも重要なところで

あることを覚えようとするとき

そのあることを自分の中で

たくさん描写する

できるかぎり違う言葉を使ったり

違う画像映像を使いながら描写する

 

人間の脳の構造上

入力よりも出力それも出力したこと自体を

動作として記憶する比重が高いようだ

勇壮

心を駆り立てる音楽との出会いは

いつも偶然やってくる

なぜ心が駆り立てられるのか

しっかりと分析したことがない

 

しっかりと分析しないほうが

心が駆り立てられやすくなるとでも

思っているのかもしれない

 

しっかりと分析しないほうが

心が駆り立てられたときに感動の値が高いと

思っているのかもしれない

 

自分のことをわかっているようで

何もわかっていないようで

大切なことはわかっているのかもしれない

 

うすぼんやりと感じて忘れることが

心を飽きさせないことなのかもしれない

喪失

いったい何がなくなったというのか。

 

目に映るものがなくなったというのか。

耳に聞こえるものがなくなったというのか。

匂いのするものがなくなったというのか。

触れるものがなくなったというのか。

味わえるものがなくなったというのか。

五感では感じられないものがなくなったというのか。

 

その頃を再現することに意味はあるのか。

その頃を懐かしむことに意味はあるのか。

 

今より先にあることは絶対に

いつかの焼き直しにはならない。

 

全く同じことが再現されたら

それは楽しいのだろうか。

既視感が頭をもたげた瞬間

楽しいという感覚ではなくなる。

 

初めてだから楽しいのだ。

初めての後は、また初めてには戻れない。

初めての後には、本当に初めてのことが初めてになる。

 

滅失するとは、そのものやことが生み出す何かに、期待をしたくても期待ができなくなること。

 

期待ができなくなるのはなにも

ものやことだけではない。

人間の関係性も同じだろう。

 

ものやことについての期待が無に帰すとしたら

それはただゼロになるだけかもしれないが

人間の関係性に対する期待が無に帰すならば

それはマイナスを生み出すことになる。

 

一度得た感情は巻き戻らないのだ。

そして人間には口がある。

言葉が鋭利になっていく。

 

人は期待する。

期待するということは、望むことだ。

そうあってほしいと望むことだ。

そうでなくなったら、絶望する。

 

やっぱりよかった、には

もう二度とならないんだなぁ。