喪失
いったい何がなくなったというのか。
目に映るものがなくなったというのか。
耳に聞こえるものがなくなったというのか。
匂いのするものがなくなったというのか。
触れるものがなくなったというのか。
味わえるものがなくなったというのか。
五感では感じられないものがなくなったというのか。
その頃を再現することに意味はあるのか。
その頃を懐かしむことに意味はあるのか。
今より先にあることは絶対に
いつかの焼き直しにはならない。
全く同じことが再現されたら
それは楽しいのだろうか。
既視感が頭をもたげた瞬間
楽しいという感覚ではなくなる。
初めてだから楽しいのだ。
初めての後は、また初めてには戻れない。
初めての後には、本当に初めてのことが初めてになる。
滅失するとは、そのものやことが生み出す何かに、期待をしたくても期待ができなくなること。
期待ができなくなるのはなにも
ものやことだけではない。
人間の関係性も同じだろう。
ものやことについての期待が無に帰すとしたら
それはただゼロになるだけかもしれないが
人間の関係性に対する期待が無に帰すならば
それはマイナスを生み出すことになる。
一度得た感情は巻き戻らないのだ。
そして人間には口がある。
言葉が鋭利になっていく。
人は期待する。
期待するということは、望むことだ。
そうあってほしいと望むことだ。
そうでなくなったら、絶望する。
やっぱりよかった、には
もう二度とならないんだなぁ。