陽炎

フジファブリックに出会ったのは、

2004年の夏だったらしい。

陽炎という曲がテレビで流れていて、

女の子が土砂降りの中で突っ立っているという

印象的なPVが目に留まった。

陽炎はどうやらパワープッシュ中だったようで、

毎日毎日テレビで流れていて、

僕が曲を覚えるのにそう時間はかからなかった。

ドラムを叩いていたから、

曲終盤のスネアとライドシンバルのパラディドル(どうやら夏の驟雨をイメージしているのだろうけど)も印象的で、

そこからフジファブリックを覚え、聴き始めるようになった。

ちょうど大学に入学して、すぐの夏のことだった。

 

自動車の免許を取りたいと思って行った王子の自動車学校で、

目的がずれて、友人と自動車学校で落ち合って遊ぶだけの夏休みだった。

その頃サークルにはあまり顔も出さず、

たまに顔を出しては、へたくそのくせにカッコつけたようにドラムを叩いて帰っていた。

まだバイトもしていない頃だった。

 

自動車学校を思い出させるのは、奇しくも志村正彦が敬愛していた奥田民生率いるユニコーンのsugar boyであって、

陽炎で思い出す情景はもっともっと内向的である。

 

陽炎で思い出すのは、入谷のマンションのリビングで、

暑い夏の日にクーラーをガンガンきかせながら、

突っ立っている少女を食い入るように見ていて、

夜にはそんなちょっとしたことや、

さっき食べてきたラーメンの話を、

チャットで高校からの友達に共有していたこととか、

振り返ると陽の世界から断絶されているような感じすらするよね。

 

でも、あの頃を象徴するのは、

曲の内容的にsugar boyではなく、陽炎だろう。

 

 あの街並 思い出したときになぜだか浮かんだ

 英雄気取った 路地裏の僕がぼんやり見えたよ

 またそうこうしているうちに次から次へと浮かんだ

 残像が胸を締めつける。

 

 

 

大学に入学して、世界が広がるような気がして(男子校から共学になることが一番象徴的なのかもしれない)、

でも結局根暗だから他人と絡むことが特にできず、

高校の友人とばかりつるんでいて、

結局世界なんてそう簡単に広がらなかったこと。

都電沿いのジリジリ焼けるような道を、

ふがいない自分と戦うように自転車で駆けた日を思い出すような、

暑苦しいねばっこい歌だと思う。